NOTEノート

2025.05.26

地域の食とデザインを研究する「INADANI EATS」【イベントレポート】

こんにちは!SEES NOTE 編集部です。
inadani sees(seesと呼んでいます)ではこれまで、大小さまざまなイベントを開催してきました。
「農と森のインキュベーション」という、わかりそうでいて、ちょっとわかりにくい看板を掲げながら、伊那谷の農林業や地域資源を使った事業、地域の風景・風土を守り、伝えていくような取り組みを応援するべく活動しています。
2年前にオープンしてからというもの、おかげさまで少しずつ sees のことを知っている方も増えてきました。イベントに参加してくださる方の属性もさまざまです。

「インキュベーション」というと、堅い印象があったり、大きなビジネスを生み出すような「自分とは遠い世界の話かな…」と思う人も少なくないかもしれません。私もそうでした。
そういったインキュベーションの考え方のほうが、もしかしたら一般的かもしれませんね。
でもseesで目指しているのは、もう少しあたたかみのある、人の体温や地域の風土が感じられる仕事がこの場所を通して生まれていくこと。
それは必ずしも、大きなビジネスだけではないと考えています。

前置きが長くなりましたが、イベントレポートではイベント内容のほか、どんな人たちが集まっているかなど、seesの雰囲気を知っていただけたらいいなと思っています。

今回は、地域の食とデザインの研究室「INADANI EATS」のご紹介です!

料理人と大学の共同研究による商品開発

伊那谷の食と風土に関わる・関わりたい方々が集い、伊那谷の「食」について考える 「INADANI EATS」。
2025年3月17日に開催した第二弾では、鹿児島・大隅半島で地域の食材を使った料理を提供するレストラン「Bee by konomichi」のオーナーシェフ 蜂谷拓広さんをゲストにお招きし、商品開発や地域食材を活かす知恵を学びつつ、伊那谷の「食」に関するアイデアや技術、困りごとを持ち寄り、語り合うイベントを開催しました。
参加者は、伊那市を中心に、長野県で「食」にまつわる事業や研究、活動に取り組む方々。20代から60代まで、16名の方々が集まりました。

前半は蜂谷シェフと、今回の会をコーディネートしていただいた福留千春さんによるゲストトーク。
蜂谷さんからは、商品開発に携わった「熟成刺身」について、開発の背景や、鹿児島大学との共同研究により確立された独自技術「デキャンタージュ・メソッド」などについてお話いただきました。

蜂谷拓広さん:鹿児島県鹿屋市生まれ。日本各地のクラフトビールや国内外のナチュールワインに合う、豊かな大隅半島産食材を使った食を提供する レストラン「Bee by konomichi」を2022年に開店。地域の小規模生産者や無農薬栽培を進める生産者のもとへ足繁く通い”食と自然、環境”の背景やストーリーを深く理解し、表現する一皿を提供する
福留千晴さん(地域と食のしごと Northern Lights):鹿児島出身、実家は焼酎の芋をつくる農家。広告会社を経て、2015年より地域に根ざした活動に携わる。各省庁や各地自治体・地域事業者とともに「地域と食」の豊かさや可能性を国内外へ伝える事業をおこなう。inadani seesではアドバイザーも務める

大隅半島では、昔からカンパチを熟成させて食べる文化があったそうです。地元の漁師さんからその話を聞き、実際に食べてそのおいしさに感動した蜂谷さん。湿度や温度を細かく研究し、3年かけてオリジナルの熟成法を生み出しました。温度や湿度の徹底管理に加え、あえて身を空気に触れさせることで熟成を促進させるのだとか。また、鹿児島大学と共同研究により、うまみ成分のグルタミン酸などが増加していることが分かったそうです。その後、熟成刺身は鹿児島の新特産品コンクールで最高賞を受賞し、県内外にファンが広がっています。

地域にあるものを料理人が発見し、研究機関が「ひらめき」や「感動」を紐解きながら技術に高めていく。さまざまな人が混ざり合い連携することで、その土地にあるものが、他には真似されにくい「強み」になっていくことを実感しました。

ゲストトーク後半では熟成刺身の試食も。口に入れると、ほろりとほどけるような舌触りとまろやかな旨味が広がりとても美味だった

seesにアイデアの種が集まる「seedsの持ち寄り会」

そして後半は、地域の「食」にまつわる事業や研究を行う皆さまによる「seeds=アイデアや困りごと」の発表タイムです。
「seesに食のseedsを持ち寄る」というダジャレ企画ではありますが、内容はとっても充実したものになりました。

↓ 今回集まったseedsはこんな感じです。
・規格外アスパラの活用アイデアに困ってます…(アスパラ農園なつぞら)
・信州の伝統野菜を使った食の商品開発(羽広菜生産加工組合)
・天龍村の柚餅子を広めたい(NPO法人ツメモガキ)
・赤ワインの搾りかすの活用について(信州大学農学部)
・ハナマルキ醸造麹研究室コラボ企業募集(ハナマルキ株式会社)
・伊那谷の四季を味わう料理のご相談(古民家宿 夕さりて)

上記のseedsの中から、公開OKのご了承をいただいた方の発表資料を載せますね。

①規格外アスパラの活用アイデアに困ってます…(アスパラ農園なつぞら)
こちらは規格外アスパラの活用方法について発表してくださった、アスパラ農園なつぞらの工藤さんの資料です。曲がったり、枝が出てきているアスパラは、味はいいのに「規格外」になってしまいます。今回はその活用方法募集というseedsを持ち寄っていただきました。、

②天龍村の柚餅子を広めたい(NPO法人ツメモガキ)
こちらは天龍村の坂部という地区を拠点に活動する村澤さんの資料です。
天龍村から小さなお子さんとともに、片道2時間かけてseesに来てくれました。
作るのにとても手間暇のかかる村の柚餅子を商品化し、柚餅子を通して地域の風景や文化を守ろうとしています。

③伊那谷の四季を味わう料理のご相談(古民家宿 夕さりて)
こちらは2025年4月1日に開業した1日1組限定の古民家宿「夕さりて」の相澤さんの資料です。
宿は町を一望できる高台にあり、広いお庭でバーベキューを楽しめたり、薪でわかすお風呂からは中央アルプスを見渡せるそう。
今回はそんな宿で提供する「伊那谷の四季を味わう料理」についてのご相談を発表いただきました。

6名の方に発表いただいた後は、グループに分かれて今回出てきたseedsを「問い」にするワークショップを行いました。アイデアや困りごとを「問い」にしてみることで、そのseedsを通して実現したいことの輪郭がより明確になり、あらたなアイデアにつながるかもしれません。

グループごとにワークに取り組む様子。目の前の困りごとと、目指したい未来を交互に見つめる時間となった
「問い」のワークショップで、夕さりての相澤さんは「心に残る旅行にするにはどんな食事を提供出来たら良いか?」という問いを立てた

おわりに

「食」といっても、農産物をつくる農家さんや、それを加工する企業、新しい技術を研究する大学や、食を通して地域の魅力を発信する宿など、関わり方はさまざまです。
いろんな方が集まるからこそ、自分だけでは気づかなかった視点を得ることができたり、共通の悩みを見つけたり。参加者の皆さんの熱量が高く、終了間際まで熱く語り合っている光景が印象的でした。

今回の発表者の方の中には、「こういう発表の場には慣れてなくて…」という方も何人かいらっしゃいました。その恐縮する気持ち、なんだかよくわかる気がします。
それでも勇気を出して申し込んでくださったこと、とても嬉しかったです。

何かのときに相談できたり、声をかけられるような、そんなつながりがこの場所から少しずつ広がっていくといいなと思いつつ、次回以降の開催につなげていきたいと思います。
seedsの持ち寄りがとてもいい時間だったので、今後は別の形でも「seedsの持ち寄り会」をしていこうと思っています。詳しくはお知らせをお待ちくださいね!

(写真:山田 憲史