NOTEノート

2023.05.24

森の風景を手の中に感じる「いーな里山の鉛筆軸」 | 盛木材

産学官連携拠点施設 inadani seesでは、令和5年度の「inadani sees 農と森の補助金事業」の公募がはじまりました。
伊那谷の農や森が豊かになっていくことを目指し、地域の自然資源を生かして挑戦するプロジェクトを支援します。

今回は、伊那市の中でもとくに緑が深い高遠町で、森林整備事業と広葉樹を中心とした製品づくりをしている盛木材へお話を伺いに行きました。
盛木材では、昨年度の「inadani sees 農と森の補助金事業(旧発掘プロジェクト)」として、里山の木々を使った鉛筆軸をつくったそう。
盛木材の盛 尚貴(もり なおき)さんに、鉛筆軸がうまれた背景や、そこに込めた想いをお聞きしました。

虫食いもOK。木のクセを個性として提案する

 ーー盛木材ではどんなお仕事をしていますか?

森林整備と特殊伐採(狭い場所や高い場所にある樹木を根本から倒さずに伐採する手法等)が主な仕事ですね。伐った木は製材所に持っていって、製材してもらった板材を売ったり、余った材料で商品をつくったりしています。

ほかにも、私たちが整備している裏山で山や植物の話を聞きながら散歩した後に、来た人たちが好きな広葉樹板を選んでカッティングボードや棚板をつくれるクラフトツアーをしたり。
母屋の前に炭窯があるんですけど、毎年冬には炭焼きもするし、今度茶道をしているグループの人と一緒に、炭の窯出し見学ツアーなんてこともします。

 ーーこのショールームもすてきですよね。

板材を使い方に合わせて木取りをするときに、虫食いや割れた部分を避けて切ると使える場所が限られちゃうんですよね。そういう捨てちゃったり燃やしちゃったりするような材料がもったいないので、組み合わせてショールームの内装に使っています。

ショールームの壁にはさまざまな端材が組み合わせてある

 ーー木のタイルみたいでかわいいです。ショールームはいつ頃からあるんですか?

一昨年の8月ですね。ショールームがあればいろんな材を実際に見てもらえると思って、もともと原野だったところを2年半くらいかけてつくりました。
せっかく森の近くに住んでいて、「広葉樹の板が欲しい」と思っても、一般の人が広葉樹の板を買える場所ってあんまりないじゃない?

それに、一般的に木工家具とかで使われている材木って一級品なんですけど、実際はいい材ばかりではなくて。そういう材を「よくないもの」にしちゃうと、木工品とか家具ってすごく高くなっちゃうんですよね。
虫食いも割れもOKにするともっと値段は下がるし、クセのある材を木工家の人たちに使ってもらえばもっと木の利用の幅が広がるから、そういうことを提案したいなと思っています。

身近な里山の木をもっと身近に、手の中に

 ーー「いーな里山の鉛筆軸」はどうしてつくろうと思ったんですか?

すぐ近くの里山にあるような、伊那の材料を使いたいなと思って鉛筆軸をつくりました。サクラ・オニグルミ・エンジュ・ケヤキ・カエデの5種類があって、どの木も自社で高遠や長谷で伐ったものを使っています。

樹種によって異なる色や木目がうつくしい

 ーー身近な木、ですか?

たとえば、ブナを使おうと思ったら山の奥のほうに行かないと取れないんですけど、今回使った木はいつも整備で入っている森にある身近な木を、手の中に入れたいなって。他にも選択肢はあったんですけど、色や手ざわりの違いも楽しんでもらえるように今回の5種類を選びました。

 ーー実際に触ってみると、樹種によって手ざわりが全然違いますね!

そうそう、加工方法は同じなのに全然違うんですよね。
カエデは固くてツルツルしていたり、オニグルミは柔らかかったり。この辺りは日が暮れるといろんな動物が出てくるんですけど、私はオニグルミの鉛筆軸を見ると、くるみを蓄える里山のリスの姿を思い出します。

今はオンライン販売が主なんですけど、イベントや月に一度ショールームを開けるときにはぜひ触って選んでもらいたいですね。

 ーー里山から伐り出した木はどうやって鉛筆軸になるんですか?

有賀製材所で板にしてもらった木を1年以上天然乾燥させてから、高遠の木工家の人に鉛筆軸にしてもらっています。ケースはどんなものにするか悩んで、伊那市の美篶(みすず)にアトリエを構える「チプカとプクチカ」さんにリネンのオリジナルペンケースをつくってもらいました。

 ーー木を伐るところから、加工やケースまで全部伊那でつくっているんですね。

伊那の人だけにこだわっているわけではないんですけど、このあたりは移住者が多いし、いろんなことができる人が集まっていますよね。私たちも移住して23年になりますが、お付き合いの長い人も増えてきて、同じような価値観を共有できる人たちが身近にいるのはありがたいです。

色や手ざわり、木の個性を知ってもらうきっかけに

 ーー鉛筆軸を使った人に、どんなことを感じてもらえたらうれしいですか?

「森を感じてもらいたい」ってありきたりな言葉かもしれないけど、それだけなんですよね。
私たちは木を伐って仕事をしているし、家では薪ストーブを使ったり、薪でお風呂を沸かしたり。木が暮らしの一部になっているから、木がないと生きていけないんです。
でも、私たちにとって木は身近なものだけど、そうじゃない人もいっぱいいますよね。

原野を切り開いて建てた母屋

 ーーいっぱいいると思います。「木がないと生きていけない」なんて考えたことがなかったです。

そうですよね。そういう人にも、今よりもっと木を身近に感じてもらいたいです。鉛筆軸を触ってもらって、「木ってこんなに違うんだ」とわかってもらえることがすごくうれしいなと思います。私も前はわからなかったんですけど、子どもの個性がそれぞれ違うみたいに、いつも木に触れていることでだんだん木の個性がわかるようになってきました。

たとえば桜はイメージがいいし、人気なんですけど、鉛筆軸が木の個性に気づくきっかけになって「こっちもいいね」と思ってもらえたらうれしいです。
あとは、鉛筆軸は色鉛筆にも使えるから、保育園や幼稚園で使ってもらえたらいいな。

 ーー子どものときの体験って、ふとした瞬間に思い出すことがありますよね。鉛筆軸もそんな存在になるのかもしれません。

木は経年変化も楽しめるし、長く使ってもらえると思います。
大人になってから、「保育園のときにもらったんだ」とか言ってもらえたらとってもうれしいですね


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また、ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」では、サクラの鉛筆軸がお礼の品として掲載されています。詳細はこちらから。


木を伐り、木が暮らしの一部になっている盛さん。木の個性について話すときの、子どもを見守るお母さんのような優しいまなざしが印象的でした。

「inadani sees 農と森の補助金事業」では、伊那谷の農や森が豊かになっていくことを目指し、この場所から挑戦したい想いのある方のご応募をお待ちしています。