NOTEノート

2024.03.12

農と森の探訪記 | 伊那木材センター

伊那谷流域で生産される丸太を集荷・販売している、丸太の市場こと『伊那木材センター』へ行ってきました。
これまでに製材所の方や木こりさんの話の中で「これは市場で買った木だね」「この木は市場に持っていくよ」と、何度も市場の存在を耳にしていました。
「丸太の築地みたいな感じだろうか……」と想像を膨らませながら話を聞いていましたが、今回見学する機会をいただいたので、現地の様子をシェアしたいと思います!

木材センターは丸太の流通拠点

長野県には木材センターが4ヶ所あり、県内18の森林組合が出資して設立した「長野県森林組合連合会」によって運営されています。

伊那谷流域(諏訪・上伊那)で生産される素材丸太を集荷・販売する「伊那木材センター」は、伊那市駅から天竜川沿いに南へ車で10分ちょっとの場所にあります。

訪問したのは2024年1月17日、伊那木材センターは新年第一回目の市開催日で、この日は良質なひのきが集まる「ひのき祭り」が行われていました。
ちなみに今回の市が第1092回。年間12回開催されているようなので、単純計算で91年も開催されていることになります……!

広い土場にたくさんの丸太が並んでいる光景は圧巻です。

仕分ける、測る、記録する

山で伐採された木は枝や葉を落とし、丸太の状態になって木材センターに運び込まれます。
木材センターでは、運び込まれた丸太を「樹種」「長さ」「末口径(丸太の細い方の切り口)」「直曲」ごとに分ける選木作業が行われます。

用途ごとに分けられた丸太は掽積み(はえづみ)と呼ばれる方式で積み上げられ、掽ごとにサイズを測って記録し、市で配られる明細書にまとめられます。

ピラミッドのような一つひとつの山を「掽(はえ)」と言います。

この作業が市が開催される一週間ほど前から行われるのですが、伊那木材センターでは仕分けも計測も人の手で行われる(自動で仕分ける大型の機械がない)ため、作業には大変な労力がかかっています。
とくに夏場は一度市を逃してしまうと丸太に虫やカビが発生してしまい、売り物にならなくなってしまいます。売らないことにはお金にならないので、できるだけ残らず売れるようにと日々準備を進めているそうです。

流れるような入札の風景

入札は午後12時からはじまります。入札では掽ごとに1.0m3当の単価を入札用紙に記入し、一番高い単価を書いた方が落札となります。
市開催日の朝、入札に参加する人たちが丸太の情報が記された明細書を手に、真剣な眼差しで丸太を見て回っていました。

それぞれの掽積みに振られた番号を5の倍数ごとに区切り、次々とリズミカルに読み上げる声に促されるように札を入れていきます。この「唄」のような掛け声も、場の雰囲気を盛り上げ、買ってもらいやすくする工夫なのだとか。

この場にいる人以外にも「置き札」といって、事前に見にきて札だけ入れていく人も多数いるのだそう。ただ、現地に来るとその日の相場がわかるので、様子を見ながら入札価格を決められる利点があります。

ちなみにこの日は普段の市と比べて高い値段がついていたようで、「ご祝儀相場もあるのかな。そういう日は無理して買わないよ」と入札に来ていた方は言っていました。

丸太の並ぶ土場をめぐる

入札が終わるのを待って、有賀製材所の有賀さんに土場をぐるりと案内していただきました。

「こんなにあると見るだけでも大変だね」と有賀さん。
この日は新年一回目だったせいか、普段の市と比べて丸太の量がかなり多かったそう。
“ひのき祭り”というだけあってたくさんのヒノキが並んでいました。

氷柱(つらら)みたいですが、樹液です。

ヒノキと似ているけれど、こちらはスギ。ヒノキは中心が白っぽいのに対し、スギは赤っぽい色をしています。

「こんな傷んだ木も出てくるのか」と思って見ていたのですが、この中心が黒くなっている丸太は“黒柿”です。通常は橙色〜淡黄色に近い色をしているカキの木のなかに、稀に墨色のような黒色が中心部に入るものがあるそう。昔から茶器に使われたりして、この黒い部分があるほど価値が高い。

「黒柿のことを知らずに焚き物にしちゃう人もいるんだけど、器をつくるなら短くても使えるし、欲しがる人はいるんだよね。」

とのことですが、全然知らなかった……。

そしてこちらは1本売りで56万円(!)の値がついたケヤキ。岡谷の神社から来た社木です。

このぎゅっと詰まった年輪の幅が高値がついた理由。その価格に驚きましたが、このケヤキが育ってきた時間を思うと高いとは言えない気もしてきます。

「木は一気に成長するよりも、ゆっくり成長するほうが年輪の幅が細かくなるんだよね。たとえば木曽檜と言われるものは、日陰の厳しい環境でゆっくりと成長する。同じ太さの木でも、30年かけて太くなったものもあれば60年かけて同じ太さになるものもあって、そうすると年輪の間隔が全然違うんだよね。」

一気に大きくなった木は、太さはあるけど目が荒く、製品になったあとに反ったりしやすい。年輪の幅が細かいほうが材木としては狂いが少なく、“優秀”だと言われているそうです。
ケヤキは高級木材として日本家屋のお座敷や下駄箱に使われ、30年ほど前は今日のような価格がつくことも珍しくなかったそう。当時と比べると需要も少なくなってきたこの頃ですが、このケヤキはどんな使われ方をするのでしょうか?

売る人にも買う人にも、選ばれ続けるために

最後に伊那木材センターの北原さんにも、土場を歩きつつお話を伺いました。

「この丸太は、あえて根本の部分を残して伐ってきたものです。」

そう説明された丸太を見てみると、端っこが若干広がっていました。

「地面から出たすぐの『元玉(もとだま)』と呼ばれる部分には、あまり節(ふし)がありません。いまは木材に対する価値観も変わってきているかもしれませんが、これまでは一般的に“節があること”が欠点になっていました。」

元玉からは節のないきれいな板が取れるので、この部分をほしいという人がいるそうです。
丸太を板にする際にはこの部分を落として使うようですが、あえて根本に近い部分を残しておくことで、これが元玉だという証拠になる。小さなことかもしれませんが、これも丸太をできるだけ高い値段で買ってもらうための工夫です。

(写真が残っていなかったのでイメージ写真です……。4mの丸太にこの写真のような根本の部分がついていました。)

元玉であることが、節が少ないという一つの目安になる。
節の有無で同じ太さの丸太でも値段が変わったり、曲直を見分けたり、これを瞬時に見分けているみなさんはまさに“目利き”だなと思いました。

伊那木材センターでは、ベニヤ板の原料として工場に丸太を提供することも多いのだとか。

「うちは長野県内のシェアのうち、半分くらいの流通量があります。ここから出した丸太がベニヤ板になって回り回って伊那谷に戻ってきたり、小規模なロットに対応するのはもちろんのこと、規模が大きいからこそ果たせる役割もあると思っています。」

木を伐って持ち込む人たちは、できるだけ高く売ってくれる場所に丸太を持ち込みたい。
丸太を買う人たちにとっては、高すぎると買ってもらえない。
売る人と買う人、どちらにも選ばれ続ける木材センターであり続けること。その塩梅が難しさでもあり、出してもらった木を売る中立な立場として大切なことなのだと教えていただきました。


伊那木材センターでは月に一度「市売り」が開催されています。
入札保証金を預ければ基本的に誰でも入札に参加できるそうなので、興味のある方は長野県森林組合連合会のWEBサイトをのぞいてみてはいかがでしょう?