書いた人:塚田里菜
広告ベンチャー企業にて営業や新規事業開発、モビリティスタートアップにて事業開発やサービス設計の経験を積む。人と自然の心地よい繋がり方を模索し、森や自然と関わる活動に参加する中で伊那市の地域おこし協力隊に着任。「森のインキュベータ」をミッションに23年9月に移住、活動を開始。
私は、この9月から伊那市に移住し生活を始めました。
sees schoolの募集が開始される数ヶ月前、初めて伊那を訪れた私は、そのたった一度の訪問で、いくつかの偶然とご縁が繋がって、伊那で暮らすことを決めました。
今回のsees schoolのコンセプトは「自然と生きるベースライン」。
ただ遊びに訪れる場所ではなく、暮らす場所として、伊那やそこにある自然と私はどうやって生きていくんだろう。
これからまさに伊那で暮らしていく私にとっては、まさに自分事の問いであり、ちょっと不安な気持ちが入り混ざりながらも、これからにワクワクする気持ちで迎えたsees schoolでした。
今回の会場となった鹿嶺高原の「雷鳥荘」からは、伊那谷が見渡せる景色が広がっていました。自分が住むところをパノラマで見れるなんて不思議。
目の前に広がる景色を眺めながら始まったsees school 、1つ目の講義は「風土と食文化と風景の関係 – スローフードな地域作り – 」。講師はノンフィクション作家の島村菜津さん。
イタリアのローカリズムについて、なんと100枚以上の素敵な写真とともに紹介してくださいました。
イタリアは「ローカリズム」がとても発展しているそう。
遠いヨーロッパの国の話、のように思っていたけれど、日本がイタリアから学べることは思った以上にたくさんあるのだと知りました。
都市化が進み、地方から若者が都市に流出していったトスカーナ地方の人々の「自然と付き合いながら生きていく」歩みが、島村さんが実際に現地で見聞きしてきた体験談とそこに暮らす人々の写真から、どんどんと伝わってきました。
ただ旅行客として訪れるのではなく、そこでどんな生活が繰り広げられ、どんな思いでそこにいる人々が生活をし、地域に根付き、地域を守りながら仕事をしているか、私たちにキラキラとお話しされている島村さんの姿を見て、とても素敵だな、私もこんな風になりたいなと感じました。
島村さんの講義で見た、たくさん(とりわけ美味しそうな料理)の写真の誘惑で、お腹を空かせた私たちに、続いての講義は「kurabe」オーナーシェフ渡邉竜朗さんと伊那で農業を営まれている「耕芸くく」さんの対談。
シェフってこんなに活動的なの?!と驚いてしまうくらい、「食」「料理」を通じて、伊那谷の地域と人を繋ぐお仕事をされている渡邉さん。
この講座の中で印象的だったのは、野菜を育てる農家さんと、それを実際に調理するシェフは、実は接点が作りづらいということ。働く時間やスタイル、効率よく分業された今のシステムでは、同じ「食」にまつわる同業者なのに、お互いの顔を見ることも、ましてや会話することも難しいのが実情だという。そして農家さんは、実際に自分の育てた野菜をお客さんが食べているところを見る機会がなかなか作れないとのこと。
渡邉さんは「同業者」である農家さんと顔を合わせ、仕入れた野菜を直接受け取り、ご自身のお店やマルシェで、農家さんの目の前でお客さんが「美味しい」と言っている顔を見れる機会を作っているのだそう。
「同業者」としてお互いを尊重し合い、そして一緒に盛り上げよう、続けていこうと思っていることが、お二人のお話からとても伝わってきました。
そして対談のあとには、お待ちかねのご飯の時間。
今回のsees schoolのカリキュラムのテーマは「具体と抽象を体験がつなぐ」。
耕芸くくさんが伊那谷の地で育てた野菜を、渡邉さん(kurabe)が料理し、私たちの口元へ運ばれてくる。先ほどの島村さんの講義と、渡邉さんたちのお話を通して、頭の中で「抽象」としてインプットされていたものが、まさに「具体」となって私たちの体に染み込んでくるという、とても不思議な体験をしました。
運ばれてくるお料理の一品一品について、どんな食材が使われていて、その食材がどのように育って、収穫されてきたのか、渡邉さんが丁寧に紹介してくださいました。こんなに目の前の料理のことを知ってから口にするのは生まれて初めての経験で、一口一口、文字通り噛み締めながら味わうという、とても贅沢な時間を過ごしました。
このコースの中には、たくさんの自然が広がっていました。
2日目の朝は、日の出を見に朝5時から展望台へ。
刻々と現れる太陽の光で、見せる姿が変わっていく中央アルプスの山肌が雄雄しく、これも自然が私たちに届けてくれる恩恵だと感じながら、朝の時間を過ごしました。
早起きをした眠い目をこすりながら鹿嶺高原を離れ、2日目の会場、伊那市にある産学官連携拠点の「inadani sees」へ。
伊那の地域材を使って作られた施設の中で、夏編3つ目の講座「山水郷という考え方」と題して、山水郷ディレクター井上岳一さんのお話に。
自然と関わる仕事と聞いた時、わたしたちは「農業」「林業」など、農林水産業をひとくくりに考えたり、イメージするが、実は農林水が全然繋がっていないという実情もあるのだそう。
私たちの生活や仕事が、効率化のためにいかに分断され、気がつけば見えない程にまで繋がりが薄くなっている。私たちが「便利」だと享受しているシステムが、30年後、そして100年後も続く生態系として理に適っているのか。そんなことを考えながらお話を聞いていました。
また講師の井上さんは、ご自身が地方を巡るなかで、その分断がデザインを通して繋がっていった事例を紹介してくださいました。
地域の漁師の「自分の釣る魚たちをブランドとして売り出したい」という思いから始まり、同じ地域の林業事業者が切った木を使ってブランドタグをつくり、そして同じようにその地域のデザイナーがそのブランドロゴをつくる。
そうしてその漁師が獲った魚は市場で輝く存在として、街の人々に繋がっていく。役割は違えど、肩を組みながら仕事の循環を紡いでいく。
「そんな繋がりを、どうやって生み出すのですか」という受講生からの問いに対し、井上さんは「生み出すには、何よりも『聞く』ことからはじまる」という。
生態系を、エコシステムを知ろうと理論を学ぶだけでなく、足を運び、そこにいる人たちと会話をし聞いていくこと。そういった井上さんの姿勢が、素敵な循環を紡いでいるのだと感じた時間でした。
夏編、最後の講義は「自然の見立てとツーリズム」。伊那谷で自転車冒険家/自転車まち作り実践家として活動している小口良平さんのお話。
ご自身の冒険的な経歴のご紹介からはじまり、サイクルツーリズムを通して伊那谷という地と観光客を繋げ、そしてまたその地域の活性化にも繋げていく取り組みについて伺いました。
中央アルプスと南アルプスに囲まれた伊那谷の自然がみせる景色は、都会の景色とはまた違う、人々を魅了する風景として、訪れた人の心に残るものだと思います。
小口さんのサイクルツーリズムが、そんな景色と経験を提供する入り口となり「自然と自分」「自分と人」そして「自然と人」が結果的に繋がっていく活動になっていく。
この2日間でお話を聞いた講師の皆さんは、全く違うことを仕事にしているようで、実は、自分を含めた人と自然を繋げて循環させる活動をしているんだと、最後まで聞いた時、改めて4つの講義が、自分の中で繋がった感覚を覚えました。
心も体もお腹いっぱいになりながら、クロージングを迎えた sees school 夏編。
受講者同士で、感じたこと、次の秋編までに考えてきたいことを語りながら、自分の中で「自然と生きるってどういうことだろう」という問いを改めて問いかけてみた。
受講した率直な感想として私が感じたことは、「想像した以上に自然は自分の身近にあった」ということ。でもそれはほんの一部で、「もっと自然を感じられる余白がいっぱいある」ということも同時に感じました。
まだまだ私の中の自然の解像度は低いと思う。
でもそんな私が、この2日間でこんなにも自然を感じられるのだと発見できた時間でもありました。
そして、井上さんの講義のなかにもあった、まずは「聞く」ことからはじめること。
冒頭にも少し触れましたが、私はこの9月から伊那に移住し、今回の2日目の会場となった産学官連携拠点「inadani sees」で森のインキュベーターとして関わります。
ここに訪れる人、関わってくれる人、何かしてみたいなと思っている人。
まだ出会っていない、まだ知らない人。
そうした人たちから、これからたくさん「聞く」ことを通して、循環の中の一部として関わっていくことが「自然と生きること」の一歩なのかなと思いながら、伊那での生活と、そしてもうすぐやってくる秋編の受講を楽しみに過ごしています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。